『狼と香辛料3』支倉凍砂著 電撃文庫刊


長い間旅路を共にすれば、愛情は深まる。ましてそれが男女の中であれば、恋仲になってしかるべきであるのかもしれない。しかし、一方の相手が人外であればどうか、或いは偶然出会った相棒であり、恋など欠片も意識していなければどうか。深い愛情は一瞬で破綻をきたすものになりかねない、賢狼と行商人の物語は、そういう局面を迎えつつある。


「ぬしはわっちのなんじゃ?・・・いや、わっちはぬしのなんじゃ?」


震える肩でホロはロレンスに言う、2人の旅は北へ北へと向かっている。やがて目的が少しずつ見えてくる、それはホロが何百年も離れていた故郷を見ること、仲間に会うこと、しかし北の玄関口の街で得た情報は、ホロの故郷が既に滅んでしまっているという情報だった。ロレンスはホロにそのことを隠すが、情報が書かれた手紙を盗み見したホロにより、そのことが知られてしまう。寂しさのあまり震えるホロ、必死に宥めようとするが突きつけられた孤独に耐え切れない、確かなものがほしい、その思いがかの言葉を紡ぎ出し、こう続ける。


「なあ、ぬしよ、わっちを抱いてくりゃれ?」


答えを出せぬロレンスの前をホロは去っていく。折りしも街で名うての商人として知られるアマーティという若者がホロに求婚する。自分にとってのホロの存在は何なのか、ただ心地よかった関係がそれだけではすまなくなった、ロレンスは手持ちの財産をかけて、アマーティと勝負をすることにする。


儲ける為だけでなく、自らをホロの居場所とする為に。