『司馬遼太郎が考えたこと1』司馬遼太郎著 新潮社刊


全15巻、司馬遼太郎の様々なところで書かれたエッセイをまとめたもので、司馬遼太郎という人物のすごさがよくわかる作品であるといえる。1巻は時期としては、20代の後半から30代の前半にかけて、新聞記者である福田定一が作家である司馬遼太郎に脱皮していく過程であるといえる。その思索は、後に司馬史観とまで称される(揶揄されたともいえるが)歴史に対する考察から、新聞記者という仕事について、大阪という街について、戦争で向き合った生命について、自分を取り巻く人物、そしてお酒にまつわる話、将来への迷い―


戦争で向き合った自らの命に対しては、どうにもならない運命を呪いつつも、必死に答えを求めて悶え苦しんだ学生としての司馬遼太郎の姿が浮かび上がる。次々と友人が命を落としていく中で、また命を落とすことこそが誉とされた時代で、はて自分はなんの為にうまれてきたのか、そう自問自答する姿が浮かび上がる。


一方で戦争が終わった後の焼け野原で、再開した友人達と語る未来は決して明るいものではないが、何かカラッとした明るさがある。命があっただけめっけもん、さあ何をやるかね、といった若者なりの野心が、今の時代に漂う気だるいさと違って良い。見渡す限り荒野となった街で、残暑厳しい秋の空を、彼らはどんな思いで見つめたのか。


記者になってから、そして小説を書くようになってからの話は、様々な魅力的な人物との交流を中心に描かれる。出世とは無縁の隠者のような老記者や、大阪一のバーのママ、自分を出雲国造の子孫だといって憚らない友人・・・様々な人の生き様から何かを感じ取り、切り取り、一個の短な物語へと昇華させる。司馬遼太郎という人物が、何を考えてどのように成長していったか、知るにはうってつけのものではあるまいか。後14冊楽しむことができるというのはずいぶんと光栄なことである。