『医学生』南木佳士著 文芸春秋刊


著者の作品の中で比較的売れているらしい。作品が書けなくなった著者が、その状況から脱する為に書いた自分の青春時代を踏まえた名も無い地方大学医学部の学生達の物語、精一杯生きている、けど悲しいユーモアに溢れている、現実ってこんなものかも、と思わされてしまう作品。それでも読後感か悪くないのが不思議である。


主人公は4名、それぞれ目的を持って医学部に来るが、同期は1人以外は不純というか、どうにも医師になる覚悟が適当なまま来てしまった為に、満足なキャンパスすらない片田舎の大学の新設医学部に嫌気がさして来ている。いいかげんに大学を辞めようか、そう考えているうちに専門課程が始まり、最初の試練である解剖に向かう。


あまりにも綺麗で無機質な死体に拍子抜けしながら、死とはこういうものだと突きつけられた衝撃はあまりにも大きい、何をやっても人間結末はこうなのだと思えば、誰しもが肩が抜けるようだった。


物語は解剖を通して死と向かい会う医学生としての生活、地方大学に通う悲哀(一度留学先で床を共にした彼女をアサッリ東京大学医学部の学生に寝取られる)、何も始まらないうちに気まぐれで寝た30歳の女性が妊娠し結婚、女性としての焦りが産婦人科研修を終えて消えていく達観、年老いて医学部に入ったが故に医者になっても長くはない悲しさ、こう読めばすごく悲しい物語のようだが、そうではない。淡々と語られるが故に悲しいが、誰の人生も幸せだけではないし、ドラマティックではない、流れに逆らうこともできず流され、それ相応に生きていく人間の姿が医学生の若者としての苦悩や死を真近で見つめる立場からうまく描かれている。


自分も三重大とか行ったらこんな悲哀を感じたのかもしれん、そう思うと東京へ出てきてよかったなと思ったり。