漫画『エマ』読書中―階級について―


漫画『エマ』を読んだ、英国19世紀の貴族とメイドに悲恋を描いた漫画である、ロミオとジュリエットを地で行っている作品だが、英国の当時の世相とか出ていて結構面白い。19世紀はイギリスにとって飛躍の時期であり、前半はフランスのナポレオンが猛威を奮い、それを海ではネルソン提督が、陸ではウェリントンが破り、イギリスの覇権を確かなものにしたわけである。そんなイギリスの社交界に出入りする人間は世界の天辺であり、エマと恋仲に陥るウィリアムの父は「違う人間である」とまで断言する。


こういう階級社会がまだ生きていると思うと英国も大した国だと思ったり、上院が未だに貴族の根城だったり、その特権が完璧に無くなったのはブレア政権になってからだし、イギリス上院の議長は最高裁の裁判官を兼ねる伝統があったので司法権は貴族がつい最近まで形式的とはいえ握っていたわけである、上院議長の位階はカンタベリー大司教に続いて第二位で第三位とされる首相より階級が高いのだ、そういう歴史を感じるねじれがイギリスにはある。日本にもかっては存在した貴族社会は、これに比べると所詮まがい物に過ぎないわけで、と階級について考察してみたりもする。


日本に比べて欧州などは進んでいるように見えるが、公然と階級を認めているが故にその差別のようなものが見えないだけかもしれない、あって当然だから差別ではないのだ、人間としての役割の違い、裕福な生活ができる為義務も存在する、差別ではなく区別である。日本では戦争政策の為、福祉が早く比較的進んだが、イギリスにおいては戦争中の宰相であったチャーチルは福祉政策に見向きもしなかった。チャーチルマールバラ公爵家の直系であり、マールバラ公爵というのは、スペイン継承戦争で活躍したジョン・チャーチルという名将であり、その活躍は類希なるもので当時の女王アンからブレナム宮殿という宮殿をもらったぐらいの人物である、そういう人の子孫が選ばれるべくして選ばれるイギリスはやはり日本とどこか違う、東条英機は父は陸軍中将でも、祖父は盛岡藩付けの鷹匠であったのだ。階級があるが故によかった部分もあるが、その古き良き英国を引き摺ったが故に、一時期の没落があったわけである。華やかな貴族社会、そして階級による悲恋、『エマ』を通して英国の良き時代を見ながら、果たして国が隆盛するとはいいことなのか、とりとめもなく、政治家を目指した人間の端くれとして考えてみたりするわけである。


秋雨が大地を打つ、夜長に1人思索に耽る、こんな日々も悪くないかと思ったり、だけど人恋しく寂しいかなと思ったり、エマがいつまでも恋するウィリアムを忘れず夜に泣く姿を見て、いつの時代も人が人を恋しいのは一緒かと、溜め息をついてみたりする。