『とらドラ3!』竹宮ゆゆこ著 電撃文庫刊


帰ってきてから楽しみにしていた作品、他にも角川の文芸雑誌「野性時代」に掲載されている橋本紡の中編もあるがこちらはまだ読んでいないのでまた後に、最近精力的に一般文芸に出てきていて嬉しい限り、中編のタイトルは「月光スイッチ」というタイトルだった、どうやら不倫の話らしい。だけどドロドロしない透き通った印象を感じるのがいいところだ、橋本紡描く作品の人物は少し現実から乖離して「ガラス細工」のような美しさが漂う、ガラス細工の美しさが現実からの乖離だとすれば、ガラス細工の脆さが現実にある人間の心の脆さのようで、そのバランスが絶妙なのだ。


最近どんどん有名になりつつある橋本氏、最近は中日新聞にも名前が出たり、高校ぐらいから知ってる結構ヘビーなユーザーとして嬉しい限りです。


ちなみに野性時代には我が杖道部で至高の作家となりつつある森見登美彦の作品ものっていた、楽しみである。


とらドラ3!」のレビューに入る。


本作はとびっきり目つきが悪いが家庭的な高校生「高須竜児」と、姿はアンティーク人形のように可憐ながらその凶悪な言動から手乗りタイガーの異名が授けられた「逢坂大河」の、竜虎相撃つラブコメディーである。とはいっても2人はお互いが好きだということを認めておらず、竜児の思い人「櫛枝実乃梨」は大河の親友、大河の思い人「北村祐作」は竜児の友人ということで、お互いの恋をバックアップする為に共闘することになった、というのが一緒にいる建前である。ちなみに大河は1人暮らしであるが殺人的に身の回りのことができないので、竜児の面倒見のよさも手伝ってか竜児の家半同居のような生活を送っている。


そのせいでお互いの思い人に誤解されているのだが―


そんな2人の恋路を掻き回す第5の存在がやってくる「川嶋亜美」である。性格良し、スタイル良し、見目麗し、おまけに有名モデル、と完璧なのは外面のみで、中身は完璧な性悪、傲慢、自己中、おまけに口も悪い。そんな亜美が大河と対立し、竜児が大河の恋人だと思っている亜美は何かと竜児にちょっかいをかける。前回で亜美を追い回すストーカーを撃退し、恐怖のあまり腰が抜けてしまった亜美を自宅に保護した竜児は亜美からモーションをかけられ偶然その場を大河に見られてしまう。そのあたりから今回は物語が始まる。


気にしてなんかいない、そういいながら超絶不機嫌な大河は、ことあるごとに竜児と対決、亜美は面白がってさらなる攻勢を大河に仕掛ける。それは「プール対決」である、女のカンか、大河が幼児体系をひどく気にしているのを目につけた亜美はここぞとばかりに嫌味を投げつける。これについては竜児の機転(裁縫技術)で乗り切ったが、今度は泳げないことに目を付けられ「水泳で対決」することとなる。微妙な関係のまま、竜児は大河の水泳特訓に付き合うことになるわけだが―


展開の突拍子なさ、アクの濃さ、それでいてキャラをかわいく見せる要点を押さえているテンポの良さは、やはり特筆すべきものだと思う。ただ1巻、2巻の焼き直しの感じがやや否めず、衝撃が足りなかったという感じがしなくもないのだ。1巻、2巻はキャラクターで立っていたが、新キャラクターが登場しない3巻はストーリーで勝負しなくてはならない、それが1巻、2巻の勢いと同じであると、やはり若干退屈である感じがしなくもない。ただ、竜児と大河の恋人ではないがお互いが気になっている関係、を描くうまさはすごいと思う。こういう関係はよくあるが、これだけパワフルな関係は見たことない、もっとしっとりしたものなら、少女漫画とか女性向け漫画にあるかもしれないが。


キャラクターだけで引き摺っていけそうな作品をもう一段階面白くする為に、ストーリーもびっくりさせるようなものを描いてほしいと思う、キャラクターの勢いの良さと意外な弱点の配置には脱帽です。