『項羽と劉邦』読了―


項羽と劉邦』を読み終わったわけです、始めはピンとこなかったのがどんどん物語の中に吸い込まれていくのが司馬遼太郎作品のすごいところで、下巻はやはり面白かったですね。


特に「劉邦」が情けなさすぎるのがよかった、逃げる逃げる、部下を置き去りにして逃げる、決戦場から逃げる、しまいには部下の軍隊を強奪する、いや別に部下の軍隊だからいいんですが、なんだかなと、とにかく弱い、そして喚く、項羽に怯えて日に何度も謀臣の張良を呼んで泣き言を言う、しまいには「かわってくれ」とまで言ってしまう、「俺は生まれ故郷でごろつきでもやっていたほうがよかった」とまで言ってしまう、仮にも王様にもなった人がこれでいいのかと、そう思ってしまうぐらいに情けない。


ただこの姿勢が良かった、プライドもへったくれもないのでどんな人にも頭を下げ教えを請うことができた、プライドで命を捨てそうになるところをプライドを捨てることで命を保つことができた。知らぬ間に、天下は彼の元に転がり込んできた、項羽に城を囲まれ震えていたら、いつの間にか項羽の軍の糧食が尽き始め、各地に散っていた劉邦の軍隊が集まってくる、そして有名な「四面楚歌」の情景が繰り広げられていく――


劉邦」は運がいい、というか、たぶん「生きる」ということに主眼をおいていたのが良かったのでしょうし、「負けたら田舎でごろつきに戻ればいい」といういつまでも裸一貫の感覚があったのが良かったのだ。



劉邦」が項羽に追い回されて、家臣の夏侯嬰と2人で逃げている時、不安な時は歌えといって歌を歌う姿は、まるで子どもがお化け屋敷を怖がるような感覚で面白い、とても漢王朝を立てた人物とは思えない。


項羽」に関していえば強い、とにかく強い、現れればとにかく敵は震え上がり逃げ回る、大将の劉邦が逃げるのだから当たり前である。ただ家臣は次々と離れていってしまう、項羽1人が強くてもどうにもならない状況が出現し、外交で打開できるところをプライドが邪魔をする。ただ司馬遼太郎項羽好きだったんじゃないかな、と思ったりもします、最後の虞美人との逢瀬、そして別れの物語は、戦争に明け暮れた項羽の遅く訪れた青春のようで、項羽が如何に虞美人に安らぎを得ていたかがよく描かれています。追い詰められた項羽は自らの首をはね、その死体は四分五裂します、英雄の哀れな最後と見るか、項羽らしい壮烈な死と見るかはその人次第でしょう。


三国志よりも面白い感じがしましたね、わずかな期間の間にこれだけの武将や文官が現れて、しかも一癖も二癖もある、人間性豊かで非常に面白い作品でした。さて次は何を読もうかな――


と、その前に時事通信をなんとかすべきですね。