「体育祭」は幕を開けて


4時半に携帯電話のアラームが鳴る、4年目の決戦が巡ってくる―


徐々に寮内は騒がしくなる、1年生と体育部の掛け声が廊下に響く、続々と集まってくる北寮生、ラウンジが蒼に染まり、熱気は高まる。5時半ラウンジ集合、バナナやらアミノバイタルプロが提供され、出席をとり散会、そこかしこでストレッチ、他寮で気炎が上がる、朝の目白台に気合が満ち満ちている。北寮は4年間で1番参加人数多いらしく、正に勝負時。


スタート地点に一番に集合したのは北寮だった、生憎自分は遅いので後ろの方に待機、各寮体育部長から訓示が行われるが聞こえない、そうこうしているうちに号砲がなる。前方は黙々と走る、後方は「え、もうスタート?」と戸惑いつつ目白通りへ出て行く。


この通りはいつも通り詰まる、苛立って道路に出そうにならないように気をつける。道路に出たら失格だ、歩道橋までで少しずつ順位を上げておく、遅い自分ができることは始めのうちに頑張っておいて後で落とさないように努力することくらいだ。


歩道橋を越えると目白通りから不忍通りへ、ここで少しずつ集団が解け始める。首都高速の下を潜り音羽通りへ、見果てぬ一直線、萎えるがここを抜ければ終盤戦、大塚警察前もギリギリ信号が変わる前に通過した。このあたりから右足が痛い、信号様に助けられた。


音羽通り後半、目白通りに再び入る、ここからが最期の地獄の坂だ、坂に入る前に昨年まで寮にいた後輩の声援を受ける、ひいひいだらしなく登る。これでも昔は陸上部の主将で、ジョグとか先頭で走ってたんだぞ、水谷先輩が前で走るとしんどいです、とか後輩に言われてたんだぞくそ、とか気合を入れて走る、少し惨めか、いいや惨めじゃない、ぜいぜいいいながら、遅速されど椿山荘が姿を見せ始める。ここで歩道橋が、もう一声だ、へタレ走りをしながらも後輩に声をかける、声をかける前に走れという言葉は甘受する。


歩道橋を越えると、OBの先輩達が声をかけてくれる、野間文庫を越える、郵便局の前の角を駆ける。最期だから気合を入れてやろうとなんとか脚に鞭を打つ、惰弱になった脚よこの時ばかりは走れよ、1人だけ抜く、後ろから猛然と迫る足音、ここで抜かれりゃ単なるチキン、遅速なれど心は錦、門を潜る、始めてこの門を潜った4年前ここまで俺がいるたあ思ってなかった、とりあえずよき生き残った、最期まで気は抜けない、整理された通り順番に並ぶ、番号札は222番、去年より早い、しかし1年の時よりかなり遅い。


全員ゴールした後に、体育部長訓示、マラソン主将訓示胴上げ、諸連絡、ドッジボールはこの後も練習だそう、体育祭は熱を帯びて目白台を覆い始めている。