『夜は短し歩けよ乙女』森見登美彦著 野性時代22号収録


酒豪で天真爛漫な彼女とウダツの挙がらない先輩の片思いの物語、片思い書かせたら天下一の称号を得つつある森見氏の作品である。夜の街を酒の匂いと不思議な感性の赴くままに駆け抜けていく彼女と、それを追う先輩の物語。


彼女と彼を取り巻く変な人々、妙な踊りを持つ詭弁論部だったり、そのOBだったり、鯉の商売に失敗した助べえなオジサンだったり、ズボンを脱がして盗むのが好きな金貸しだったり、怪しい閨房調査団だったり、一夜の彼女の道程の中で夢の中のような出来事が現実に駆け抜けていく。


面白いのはこの荒唐無稽な内容をすごく硬い文学的な文体で書くことだ、なんというかあの夏目漱石森鴎外に書く文章のようだといってよい、しかし描いていることは馬鹿極まりない。それでいて最後にしんみりとさせる技術もある。


著者は京都の大学に在学中なので、ほとんどの作品が京都を舞台としている。京都の大学にいってればもっと楽しかったかもと思ったり、実は同志社立命館に落ちたというのはここだけの話、受かってれば間違いなく京都を選んでいた。ところがどっこい落ちてマラソン走ったり妙な棒振り回したりしているわけである、世の中はやはり奇縁だ、悪い縁ではななかったが。


続いて28号収録の『深海魚たち』を読もうかなと思う―