『神様のパズル』機本伸司著 角川春樹事務所刊


第三回小松左京賞受賞作、最近は筒井康隆の「時をかける少女」を読んだり少しSFっぽいものにはまっているのでこの作品を読んでみようと思うのは必然だった気がする、結構前から気になっていた作品である。


さる大学の理学部物理学科に在学しつつも、落ちこぼれ大学生を自認し就職に怯えつつ、大好きな保積さんへの思いを募らせている主人公綿貫基一は、保積さんを追って入った鳩村研究室で教授から1つの依頼をされる。


それは大学の元広告塔であり、現在のお荷物である天才物理少女「穂瑞沙羅華」と接触し、彼女をゼミに引き出すことであった。始めはまったく相手にされなかったが、ふと綿貫が持ち込んだ話「宇宙の作り方」という質問が彼女を研究室に引き出すこととなる。研究室内のディベートで綿貫と穂瑞はチームとなって「宇宙の作り方」を考えていくことになる。


自分には読んでてさっぱり理解できない物理用語に圧倒されつつも、物語の伏線が各所に張り巡らされていて、かつ偏屈者にしか見えない穂瑞が抱えている悩みは多かれ少なかれ我々が一度は考えたことがあることだったので面白かった。「自分はなぜ存在しているのか、なぜ生きるのか、なぜ死ぬのか」宇宙の誕生という誰も知りえることがない壮大な誕生物語を知ることによって、自らの抱えている複雑な出生に対して「なぜ自らは生まれたのか、何の為に存在しているのか」彼女は探ろうとする。


彼女はコンピューターでシュミレーションをして仮想宇宙を作ることに成功するが、なぜか必ずそのシュミレーションは途中で進化した生物達が宇宙内に宇宙を作って自滅する。自らの生に、仮想宇宙の生誕を重ね合わせている彼女にとってそれは自らの人生を「虚しい」と感じさせるに十分だった。折りしもそのシュミレーションの為に泊り込みで綿貫と穂瑞は作業をしており、ふと2人で散歩に出かけると綿貫が思いを寄せる保積さんと穂瑞が思いを寄せる院生の相理さんが体を寄せ合いキスをしているところを目撃してしまう。綿貫のショックもさることながら懊悩が深まっていた穂瑞のショックは大きかったようだ。自らの誕生への悩み、年相応の恋の悩み、神様がいるとすればなぜ宇宙を作ったのか、そしてなぜそこに自分が存在しているのか、壮大で気の遠くなるようなパズル、しかしそのパズルはいつでも自分達の周りに転がっている。


「宇宙の作り方」なんて大きく掲げつつも、身近な感覚から決して離れない、宇宙の生誕も日々の悩みも同じフィールドの中で論じつつ決して高尚になったり突飛になったりしない、その物語運びは秀逸でした。青春小説ともいえますし物理うんちく満載のSF小説ともいえます、面白いのでぜひどうぞ。