『沈まぬ太陽(1)』山崎豊子著 新潮社刊


山崎豊子の作品を読むのは初めてだけれども、続きが非常に楽しみな作品となった。『白い巨塔』等の数々の名作を生み出してきた作家だが、『沈まぬ太陽』を読むと会社社会の中で「自分の筋を通して生きる」ということが如何に難しいのかをよく知ることができる。


東都大学の学生時代は学生運動の闘士として留置場に拘束されたこともある「恩地元」は、大学を卒業し国民航空に勤務した後は社務に専念し、勤務して10年が立っていた。社内の大蔵省ともいえる部署に栄転した直後、彼は労働組合の委員長に選任される、一度辞去していたのに強引に委員長とされたのだ。


直言を辞さない恩地は、次々と要求を通し名委員長として労働者の歓呼をもって迎えられるが、会社の恨みをかうことになる。労務担当役員に戦前共産党運動員として治安維持法で拘束されたこともある堂本が就任すると、交渉は老獪を極め、難航する。堂本は恩地の親友であり副委員長である行天をあることを吹き込むことで不信感を抱かせ引き離す。そして恩地はしばらくして中東のカラチへの勤務を命ぜられる―


「報復人事」―恩地の苦難の日々の始まりであった。


カラチでの劣悪な勤務環境、同僚の冷たい対応、かっての仲間である行天のサンフランシスコへの栄転、めまぐるしく動いていく社会の中で自分は止まっている、そして勤務が期限の2年に迫った頃、恩地はイランのテヘランへの勤務を命ぜられるのであった。


物語の冒頭は恩地が既にアフリカのナイロビに勤務しているところから始まる、日本を離れ海外で勤務して10年になっており、深い孤独が顔に刻まれている。人々の為に戦ったが為に、こんな僻地においやられ家族と生活することもできないことにやりきれなさを感じつつ、自分を信じて待ってくれている組合の人々のことを裏切ることはできない。何の為に生きているのか、会社の為か、人の為か、自分の為か、もっと大きなものの為か―


これから会社に勤務していく人間としてしっかりと読んでおきたい作品である。