『半分の月がのぼる空・外伝〜金色の思い出〜』橋本紡著


最新号の電撃hpに収録されている、アニメ化も決まった『半分の月がのぼる空』の外伝を読んでみました。元々はドラマCDに収録されていた物語をノベライズしたもののようで話としては本編より少し前の話になっています。


基本設定としては、物語の舞台は三重県伊勢市のとある病院で、難病の少女「里香」と肝炎で入院している少年「裕一」の交流の話でありまして、本編ではお互いが若いながらも手を携えて生きていこうと決意したところまで行っているんですが、今回は少しだけ前の話、お互いがまだ少し気になる存在だった頃の話。


物語は、病院内で有名なエロ爺「多田さん」と元ヤンキーの看護婦「亜希子さん」の赤福争奪戦やらも交えつつ、裕一が里香から借りた一冊の本「高瀬舟」を無くしたところから物語りは始まります。本をなくしたことに慌てふためき、裕一は病院内を探し回り、病気が悪化するのもどこ吹く風、友人の家へ、そこでゴミとして捨てられたと知ってゴミ収集車を追って町中探し回ります。


一方、里香は赤福争奪で疲れきった亜希子さんと「高瀬舟」について話します、物語の中で兄を思って死のうとした弟、死に切れなかった弟の命を弟の望むままに絶った兄、里香はその二人の関係を殺し殺された悲しい関係であっても心が通じていたので幸せなのではないかと語ります。この時点でまだ裕一は眼中にありません、亜希子さんもどう答えればいいかわからず、お茶を濁します、自分の死を常に意識して生きる少女を目の前にして。


やがて本を取り戻した裕一は里香の部屋を訪ね、その古い本をなぜ持っていたか尋ねます、里香はその本は亡くなった父親の本だと言います。裕一はふと自分のろくでもなかった父親に思いをはせ、そのろくでもなかった思い出に暖かさを感じます。しばらくお互いの父親を思ってたわいもないおしゃべり、まだ二人が出会ったばかりの頃のお話・・・


とまあ、へたくそなんですが、せつない感じもなく、かといって熱い感じもなく、淡々と進む日常に、そうだ忘れられない一コマがあったと、そういう瞬間を切り抜いたような物語です。ありきたりな日常を、素敵に描いた短編です。